アタシ。今日から仕事なの。職場のみんなには会いたいけど、彼とはどんな顔して会えばいいのかって考えると、気持ちが揺れるわ。でも、行かなくっちゃ。 オフィスでは毎年、仕事始めの日は朝礼の時に部長の挨拶から始まって、それぞれみんなが今年の抱負を言う事になってるの。 気持も新たにはなるけど、ちょっと苦手だわ。 さあ、それが始まったわ。あーあ、なんて言おうかしら。
その後は各自の部署に就いて、仕事にかかるのだけど、アタシは受付でしょ?かなり遅くに現れる社長と一番先に顔を合わすのがアタシなのね。社長ったら必ずと言っていいほど「鷹木君、いい人はできたかね?」と言うの。隣には秘書も一緒でしょ?アタシはいつも同じ返事をするのが嫌だったの。でも今年は…。 あ、社長が来たわ。 「みんな、新年明けましておめでとう!今年も宜しく頼むよ。」 「社長、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します!」と、みんなが声を揃えて挨拶を済ませると、やおらカウンターに近づいて「鷹木君、いい人はできたかね?」と言ったわ。 これってセクハラになるんじゃないの?余計なお世話だし。いくら社長のお言葉でも。
オフィス内を見回しても、去年から新型コロナ感染対策で机の間にはアクリル板を設けて、何だか植物園の中にいるみたいな感じなの。ちょっとは慣れたけど。 社長は秘書に促されて、やっとエグゼクティブルームに消えて行ったわ。ふー。
社内の様子はアタシにはよくわからないの。何しろカウンターの受付でしょ?みんなには背を向けているじゃない。だから、今回はオフィスの風景のお話とさせていただくわ。
オフィスでは誰彼と鳴く、キャッシュレスの話をし始めた。 「俺ネットの何かで読んだんだけどさ、韓国ではほとんどカードを使っているらしいよ。高齢者ももう現金はあまり使わないみたいだね。」と谷 敏夫が話を振ってきた。即、隣の女史が「じゃあさ、カードが使えないような高齢者やちっちゃな子供はどうやっているの?」と谷に向かって突っついてきた。 「世の中にコインがなくなってしまうと年末共同募金がやれなくなるんじゃないかな?」と言う声もどこからか発せられた。 「はあ?」という奇妙な声も返ってきた。 「国内の自販機でカード使用できるものもあるの?」と女史がまた訊いてきた。 「さあ。俺、それ以上は知らないっす。」とボソボソ言いながら席を立ってしまった。 谷は立ったまま、「あ、そう言えばさ、山岡さん、ここの受付嬢と付き合ってるみたいだよ。」と、周りのみんなの反応を期待するような声で話し始めた。 「えーっ?なぜ谷さんがそんな事言うの?」と隣の女史がまた突っついてきた。 「だって俺見たんだ。いつだったかな。うん、年末の最期の日。駅で山岡さんを見かけたんだけど、その視線の先に彼女の笑った目があったんだ。それから二人でホームへ消えて行ったんだよ。」 「ふーん。」と言いながら、隣の女史は山岡の姿を探していた。見つけたら訊いてやろうというところだろうか。 「あ、山岡さん!」と女史は彼のつくえまで駆けて行き、耳元へマスクごと近づけてささやいた。 「ねえ、あなた鷹木さんとお付き合いしてるんだって?」 あまりにもストレートな質問に一瞬強張った顔になった山岡だが、特に否定も肯定もしなかった。 「ふふーん。」と女史は納得したような顔つきで自席まで戻って行った。 この一件がちぐさの耳にもいずれ入る事となった。
嫌だわ。これからいったいどうなっていくのかしら。 今日はこの成り行きにララバイを送るわ。どうぞお手柔らかにって。 じゃあ、今夜はこれでおやすみなさい。
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Date: 2021/01/04(月)
No.2033
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No.2034
たなばた
2021/01/04/18:51:46
conkoさん、こんばんは。たなばたです。 どうしてこんなにエピソードが湧くのですか? 舞台はまたこの辺りからは遠く離れた場所(横浜)で、何かゆかりがあるのでしょうか? conkoさんってミステリアス。
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No.2036
conko
2021/01/05/14:39:06
たなばたさん、新年明けましておめでとうございます。 いつも暖かいコメントをありがとうございます。 今年も頑張ってブログを続けていきたいと思っております。 どうぞ、これからもコメントをどんどんお寄せ下さいね。 私はお話を書く事が大好きで、ふと浮かんだ事を、たった一行でもあれば、それがストーリーになっていきます。 楽しい作業なので、止められません。 でもそれをブログとしてアップするのですから、皆様にはご迷惑となるかも知れません。すみませんです。
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