アタシよ。もうそろそろお正月気分から抜けないといけないわね。 松の内も過ぎてしまうから。でも、今年はもとよりお正月らしくなかったような気がするわ。会いたい人たちとは誰とも会っていないし。あ、でも…。 夕食後、ふっと彼の事を考えていたらちょうど母から電話があったの。瞬間ギクっとしたわ。母はいきなり、こう切り出したの。 「本当ならさあ、今日は大分で今頃ふぐ料理をお父さんと食べているはずだったんだよ。それがさ、コロナのせいで国の経済活性化対策のキャンペーンが、期限付きとやらで停止となったでしょ?だからさ、キャンセルしちゃったの。」と口惜しいと言わんばかりの声で話していたわ。 アタシは旅行の話など聞いていなかったので、「あら、そう。それは残念だったわね。」と軽く言ってやったわ。 母ったらそれがわかったのかしら、「あ、ごめんよ。ちいちゃんには何も話していなかったもんね。」と、ちょっと申し訳なさそうな声に変っていたわ。
ああ、旅行か。本当に大変な状況になってしまったわね。去年のうちにコロナもどうにか納まってくれるかと期待を持ったんだけど、全然だわ。会いたい人にも会えないし、行きたい所へも行けないし。イベントだって、どうせまた中止になるんでしょ?こんな先行き不透明な世の中になっちゃって。アタシたちのできる努力や工夫にも限界ってものがあるのよ。これ以上どうしたらいいの?ワクワクできるような事は幻となってしまうの? でもスマフォでオンラインって手もあるから、今はICTとやらのおかげで随分役には立っているわね。バーチャルだけど、離れている人たちとも、まるで一緒にいるようにお話もできるし。便利と言えば便利よね。まあ、その機器を使えたらの話だけど。
アタシは玄関ドアに下げておいた正月飾りを外したわ。らしいものってこれだけだもの。おせち料理も、買ったものと作ったものとで簡単に済ませたし、年賀の挨拶もスマフォで済ませちゃった。でも少しは賀状は届いていたわね。 もう普通に時は流れていくのよ。明日も仕事に出るんだもの。 彼と社内で会う事はあまりないけど、アタシは受付だから、オフィスを出入りする時には彼は通りかかるわね。ああ、なんて顔をしたらいいんだろう。 また、誰かにからかわれないかしら。 アタシは彼との車で会った時の事を思い出していたわ。自然と顔が熱くなってくるの。 部屋にはずっとつけっぱなしになっている、テレビの音しか聞こえてこないわ。夜は静かすぎて、何でもいいから音が欲しいの。今までなら平気だったのに、最近は独りがとても淋しく思えるの。彼に会いたい。
今日はアタシの夢にララバイを送るわ。素敵な夢に。 じゃあ、今夜はこれでおやすみなさい。
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Date: 2021/01/07(木)
No.2038
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